恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
環自身は自分の腕はバリスタなどと呼ばれるレベルではないと思っているのだが、そこまで請われているのを断るわけにもいかない。
清美は笑顔を浮かべた環をじっと見つめ、口を開く。
「……本当に、お前はうちの屋敷には勿体ないくらいの執事だよ。でもね、環」
清美は正面から環を見据える。
――――真剣な、その瞳。
「花澄に関しては、……何もかもお前が面倒を見なければいけないというわけじゃない。もっと手を抜いてもいいのだよ?」
「……?」
「あのままでは、あれは一人では何もできない娘になってしまう。お前が傍にいる間はいいが、お前とて、いつまでも傍に居れるわけでもない」
清美の言葉に、環は目を見開いた。
「……清美様……」
「それに、将来あれはここから出て行かねばならない身だ。相手が月杜かどうかは何とも言えないが、いずれは誰かの許に嫁ぐのだ。しかしこのままでは外に出せない」
清美は思慮深げに言う。
……祖母として孫を案じる気持ち。
環は清美を見つめながら、自分の胸の奥に鈍い痛みが広がっていくのを感じていた。