恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



4月に工房に行った時、食事の準備を手伝おうとした花澄。

花澄は何もしないわけではない。

お嬢様という立場ではあるが、ことあるごとに環を手伝おうとする。

けれど、その機会を奪っているのは―――――自分だ。


花澄に手伝わせないのは、花澄の手が弱いからという理由もある。

しかしそれは、表向きの理由だ。

本当の理由は……。


自分がいないと、何もできないように……。

――――花澄が、自分なしでは生きられないようになればいい。


表には絶対に出せない、心の奥底にある本音。

清美にも、もちろん花澄自身にも知られるわけにはいかない、本当の思惑。


環の視線の先で、清美は軽く息をついた。


「すぐに何かを変えろという訳じゃないが、お前もそのことは頭に入れておいてほしい。……いいね、環?」

「はい、畏まりました」


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