恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
2.お嬢様と執事
事の発端は18年前に遡る。
────18年前。
当時、鎌倉の駅近で反物店を経営していた花澄の祖父のもとに、生まれたばかりの男の子を抱えた一人の若い女性が飛び込んできた。
女性は祖父の学生時代の友人の娘で、とある事情で家を追い出され、行く宛てがなかったところをツテを頼りに祖父のもとへとやってきた。
祖父はその女性を保護することとし、自分の息子の家、つまり花澄の父の家に住まわせることにした。
ちょうどその頃、花澄の母も花澄を出産したばかりで、キャリアウーマンで日々忙しかった母は、これ幸いとばかりに彼女に乳母役を頼むことにした。
『相沢律子』と名乗ったその女性は乳母として住み込みで働くこととなり、花澄と連れてきた男の子を自らの母乳で一緒に育てた。
その男の子こそが環で、今では律子とともに花澄の屋敷に仕えている。
「昔は可愛かったのに、何をどう間違えてああなっちゃったんだか……」
────夕食の後。
花澄は環が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、リビングで昔のアルバムをめくっていた。
リビングは玄関ホールから奥に入ったところにあり、二階へ続く黒木作りの階段の下をくぐると、白漆喰壁に囲まれた空間にソファーなどがゆったりと置かれている。