恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



脳裏に浮かぶ、あの幼い日の出会い。

雪也は幼い頃から、月杜家の直系の子供としての教育を受けてきた。

礼儀作法、マナー、社交術……。

それは雪也にとっては、『いい人』であることを強要されるようなものだった。

兄の賢吾が昔から我が道を行く性格で、よく比較されたことも理由の一つかもしれない。


『雪也くんはいい子ね。素直だし、言うことをちゃんと聞くし。お利口さんね~』


と周りの大人に言われるたび、雪也は『いい子』でなければならないと自分に言い聞かせた。

『いい子』であることが、周りの人たちを幸せにするのだと……。

そう思い、『いい子』を演じてきた。


……しかし。


『いい人』であればあろうとするほど、周りの期待に応えようと思い、無意識のうちに周りが望むような『いい人』の仮面をつけてしまう。

そして、その『仮面』と『本当の自分』が乖離していくにつれ……。

『本当の自分』を愛してくれる人がいるのだろうかと、雪也は不安に思うようになった。

――――『いい人』でない自分は、誰からも愛されないのではないか。

その不安は毒のように、幼い雪也の心を蝕んでいった。

そしてそのストレスがあの極度な偏食を引き起こし……。

このままでは皆に嫌われてしまうと、不安の極致にいたとき。

……出会ったのが、花澄だった。


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