恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
雪也は前髪をかき上げ、夜空にぽっかりと浮かぶ月を振り仰いだ。
……今はまだ、この想いを花澄に告げるつもりはない。
けれど高校を卒業したら花澄と正式に婚約したい。
あの初めての出会いの時から、雪也の心にいるのは花澄ただ一人だ。
……目を閉じると脳裏に蘇る、花澄の素朴で温かい焦茶色の瞳。
雪也の心の奥底まで入り込むあの眼差し。
花澄は高校に入った頃から、自分を見る時、どこかはにかんだような照れたような表情を浮かべるようになった。
恋とまではいかなくても自分のことを意識しているのは確かだ。
あの眼差しを思い出すと、胸に熱い想いが広がっていく。
上弦の月が、清かな光で夜道を照らす。
……花澄を思わせる、その清く澄んだ光。
花澄は自分を優しいと言うが、自分にしてみれば花澄の方がよほど優しい。
雪也は脳裏に花澄の顔を思い浮かべながら、ゆっくりと寮への道を歩いていった。