恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



<side.環>



その日の夕刻。

環は自転車を引きながら、屋敷への道を歩いていた。

――――明日から夏休みだ。

夏休みといっても環にはやることがいろいろある。

まずは屋敷の建物の総点検だ。

備品の劣化具合の確認から、屋根裏の水漏れの確認、そして床下の基礎の確認など、屋敷のいたる所を隅々までチェックしていく。

環はもちろん建築の専門家ではないが、本を数冊読めばチェック時の着眼点はなんとなくわかってくる。

それが終わったら、庭木の手入れだ。

春に花が終わった躑躅などの枝を整え、根切りや根回しをして秋の植替えに備えておく。

今は正直、季節ごとに庭を整えられるほど余裕のある財政状態ではないため、環はここ数年、庭木を季節ごとに植え替えるようにしている。

もちろん大きな木は植え替えることはできないが、小さな木を動かすだけでも庭の雰囲気はだいぶ変わるものだ。


……と、考えながら歩いていた環だったが。


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