恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
離れの玄関の辺りに母の姿を見つけ、環は眉を上げた。
離れはもともと藤堂家とは関係ない別の家で、敷地も塀で独立していた。
それを隣人の引越しを機に藤堂家が離れとして買い取り、塀を取って渡り廊下をつけた。
なので表の道路から見ると、藤堂家の玄関と離れ、つまり相沢家の玄関は独立しているように見える。
そして環も、学校から帰ってきたときには離れの方から入るようにしている。
環は歩きながら内心で首を傾げた。
母がこんな時間にここにいるとは珍しい。
環の視線の先で、律子は誰かと話をしているようだ。
誰だろう、と怪訝そうに目を細めた環だったが……。
相手の姿を見、その目はさらに細められた。
「……?」
黒い上品なスーツを着た、中肉中背の男。
どう見ても母と関わりがあるようには見えない風体だ。
しかし律子は、その男を険しい目で睨みつけている。
「……っ、明杰様と私はもう何の関係もありません!」
「しかし、律子様。あなたの御子息はまぎれもなく、林家の血を引いておられる。何より、あの瞳が……」
「あの子の目は少し色素が薄いだけです! あの方とは……っ」