恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
四章
1.月杜家のパーティ
――――8月上旬。
朝陽がカーテンの隙間から部屋へと差し込んでくる。
爽やかな夏の朝風に乗って運ばれてくる、金柑の花の甘い香り。
花澄は枕を抱えてベッドの中で微睡んでいた。
花澄の部屋は和室で、壁沿いには桐の箪笥や鏡台が整然と並べられている。
これらは母の嫁入り道具だったのだが、離婚を機に花澄が使うことになった。
……と。
コンコン、と控えめに扉がノックされる。
寝ぼけ眼のまま花澄が返事をすると、ガチャっとドアが開いた。
「……お嬢様、そろそろ朝食を……」
ドアの隙間から環が顔を覗かせる。
しかしその端整な顔は、ベッドにいる花澄を見るなり驚愕の色に包まれた。
一瞬息を飲んだ後、はぁと息をついてつかつかとベッドに歩み寄る。
「お嬢様。そろそろお起きください」
「……あれ、環。袈裟斬りはもういいの?」
「お嬢様。寝言は夢の中で仰ってください」