恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
環は冷やかに言い、腕を組んだ。
……その、冷たくも美しい榛色の瞳。
環には外国の血が少し入っていると花澄も幼い頃から気付いていたが、その理由は環本人も知らないらしい。
恐らく律子は知っているのだろうが、気軽に聞けることでもない。
寝ぼけ眼でぼーっと見上げる花澄に、環は淡々と言う。
「あと一時間で出発です。支度はお済みですか?」
「支度って……」
「……」
「……」
「……」
「あ――――――!!!」
花澄はがばっと身を起こした。
そうだった、今日は月杜家の別荘に行く日だ。
そして、まだ支度が出来ていない。
さーっと青ざめる花澄を、環が呆れたように見下ろす。
「出発の時間を遅らせることはできません。必ず一時間以内に終わらせて下さい」
「ちょ、ちょっと、環……っ」
「では私は朝食の準備を致しますので。失礼いたします」
環はにこりと完璧な笑みを浮かべ、優雅に一礼した。
そのまま踵を返して部屋を出て行く。
慇懃無礼としか言いようのないその態度。
環の背に枕を投げつけたい思いを必死で抑えながら、花澄は慌ててベッドから飛び降りた。