恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
「タリーズでイタリアンロースト、スタバでコロンビアを頼んでらっしゃるのを幾度か拝見しましたから。酸味が少ない銘柄がお好みかと思いまして」
「……よく見てるわね」
「主人の好みを把握するのも執事としての務め。当然のことでございます」
環の言葉に、花澄はなぜか胸の奥がキュッとなるのを感じた。
――――執事としての務め。
花澄の好みを把握しているのも、環が有能な執事だからだ。
それ以上でもそれ以下でも……ない。
花澄は内心で少し落ち込みながら、コーヒーカップを傾けた。
……ちなみに。
別荘にいる間は、例え二人きりでもどこで会話を聞かれているか分からないので、環は敬語で通すのがここに来た時の二人の暗黙の了解となっている。
少し寂しい気はするが、仕方がない。
なにしろ今、この別荘には50人以上の招待客がいるのだ。
「そういえばお嬢様。14時からパーティでございますが、お支度は大丈夫ですか?」
「あ、うん。ドレスなんて10分もあれば着れるし……」
……と、言いかけた花澄だったが。
先ほど着替えた時に『何かが足りない』と思ったことを思い出し、首を傾げた。