恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
「お待たせー、花澄!」
と言いながら駆け寄ってくるのは……。
西脇知奈。花澄と同じく高校三年で、花澄のクラスメイトでもある。
くりっとした勝気な目に、茶髪の長い髪。今時の高校生らしい華やかなメイク。
背丈は花澄と同じくらいだが、花澄より遥かにメリハリのついた体つきをしている。
花澄とは入学式の時に偶然隣になり、それがきっかけで仲良くなった。
知奈は花澄の横で足を止め、乱れた髪を手早く整えながら言う。
「なんであたしが日直の時に限って、プリントが増えるんだろ。なんかヘンじゃない?」
「……それは思い過ごしだよ、知奈」
「そっかなー。……ま、いっか。とっとと鞄取って帰ろ! 今日は『明花』でコーヒーが100円引きだからね、絶対行かなきゃ!」
「でもあそこ、確か17時までじゃなかったっけ?」
「うそっ! じゃあ間に合わないじゃん!?」
知奈はがっくりと肩を落とした。
『明花』は紫陽花で有名な明月院の近くにある喫茶店で、コーヒーの味に定評がある。
コーヒー一杯500円は高校生にはちょっと高いため、隔週水曜のサービスデーを狙って二人で行っているのだが……。
「仕方ないか、今日は帰ろ……」