恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
5.婚約者の特権
パーティ会場に入ると、環は一礼して会場の角に設置された飲食コーナーの方へと向かった。
会場には既に大勢の招待客が入っており、そこかしこで上品な話し声が聞こえる。
飲食コーナーがある逆側の角には、小さいながらもオーケストラのブースが設置され、チェロやバイオリンなどの優雅な音色が聞こえてくる。
花澄は辺りを見回した。
確か、最初の一時間ほどはダンスパーティだったような気が……
といっても皆が踊るというわけではなく、半分ぐらいは見物客となるのだが。
ちなみに花澄はクイックステップやジルバ、サンバなどのテンポのよいダンスは比較的得意なのだが、ワルツなどのスローなダンスはあまり得意ではない。
「あ、いた。花澄ちゃん!」
横から声を掛けられ、花澄は振り向いた。
見ると、上品な光沢のある紺のスーツを身に着けた雪也が、花澄の方へと歩み寄ってくる。
スーツに合わせ、礼服用のスカーフを胸ポケットに差し込み、髪を整えたその姿は息を飲むほどに格好いい。
高校生だと言わなければ、俳優かモデルだと思ってしまいそうだ。
雪也は花澄を見るなり、驚いたように目を見開いた。