恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
会場の入り口の方からざわめきが聞こえてきた。
カツカツというヒール音とともに、見覚えのある人物が雪也の方へと近づいてくる。
「あぁ、雪也さん! ここにいたのね!」
大人っぽいオフショルダーの紫のドレスを身に着けた美鈴が、甲高い声を上げて雪也の前へと足早に歩み寄ってきた。
……流れるような黒髪に完璧に施された化粧、くっきりとした勝気な瞳。
その姿は花澄も思わず見惚れてしまうほど美しく、迫力がある。
美鈴は花澄には目もくれず、にっこりと笑って雪也の腕を取った。
「雪也さん、踊りましょう?」
「美鈴……」
雪也は困ったように美鈴を見下ろす。
いつのまにか二人の姿は周りの人たちの目を集めていた。
……雪也に恥をかかせるわけにはいかない。
花澄は軽く一礼し、さっと踵を返した。
……お似合いの二人。
自分はもう雪也と一曲踊れたからそれで十分だ。
と、思うのに……
なぜか自分がみじめに思えてくる。