恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
……と、離れにある環の部屋に詰めかけた花澄だったが。
執事は想像以上に手強かった。
環は扉口に立つ花澄を見るなり呆れたように言った。
「……お前、今、何時だと思ってる?」
「9時」
「時計が読めないわけではないらしいな。であればもっと問題だ」
環ははぁと息をつき、柱に寄りかかった。
じろりと花澄を見るその表情は能面のように冷たい。
「本日は営業終了だ。帰れ」
「えっ、まだ9時でしょ? ちょっとくらい勉強見てくれても……」
「一応、おれの勤務時間は夜9時までと決まっている。9時を過ぎたらその後の時間をどう過ごそうが、おれの自由だ」
環は淡々という。
環に勤務時間があるなど、聞いたことがない。
恐らく自分を追い返すための方便なのだろうが……。
花澄はとりあえず食い下がってみることにした。