恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
花澄はどちらかというと酸味が少ない深煎りのコーヒーの方が好みなのだが……。
環が花澄にコーヒーを出したところで、清美が口を開いた。
「……環。お前もそろそろ支度をしなさい」
「はい。それでは、失礼いたします」
環は盆を脇に抱え、深々と一礼した。
――――ふわりと香る、甘い香り。
昔から環の体からは花の芳香のような、上品で甘い香りがする。
秋の野に咲く曼珠沙華が香ったら、こういう香りかもしれないと思うような――――甘く爽やかな、それでいて濃密な香りだ。
環は普段、時間があるときは庭で花や木々の手入れなどをしているため、その香りが体に移ったのかもしれない。
花澄はキッチンに戻っていく環の後姿をしばし見つめた後、テーブルの真中に置かれたカトラリーに手を伸ばした。