恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
環はちらりと花澄を見、唇に笑みを乗せた。
何かを抑えているような、どこか苦しげな笑顔。
ん? と思った、その時。
パタパタと、誰かが二階から降りてくる足音がした。
花澄は思わずビクッと背筋を強張らせた。
清美か繁次かわからないが、こんな会話を聞かれたら絶対に怪しまれる。
花澄と環は、この屋敷内では基本的に一緒に食事を取ったりすることはない。
いわゆる『主従の別』が昔からお互いのみならず、家族の意識の中に根付いているためだ。
だから猶更、こんな会話を聞かれたら怪しまれてしまう。
花澄は慌てて環を見上げ、小声で言った。
「じゃあね、環。おやすみ」