恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
受け取った環は、名刺にざっと目を通した。
「『港南機業 社長特命事項担当 趙浩然』? ……港南機業といえば、確か……」
「はい。香港に拠点を置く、不動産関連の会社でございます」
「その特命担当が、おれに何の用だ?」
「は。実は現社長・林明杰様と律子様の間には、浅からぬ縁がございまして」
「…………」
環は驚き、目を見開いた。
『浅からぬ縁』。
――――ということは、つまり。
環は、律子から自分の父のことについて聞いたことがない。
幼い時に何度か聞こうとしたが、律子はそのたびに頑なに断ってきた。
驚きのあまり何も言えない環に、浩然と名乗った男は続ける。
「先日、環様は香港大学の国費招待留学の書類審査を通られたとか」
「……よく調べたな」
「二次審査を通るようでしたら、明杰様がお目通りを許可するとのことです」
浩然の言葉に、環は一瞬面食らった。
しばしの沈黙の後、その紅い唇に皮肉げな笑みを浮かべる。