恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
「……なるほど、試されているというわけか?」
「お気を悪くなさらないで下さいませ。港南機業は香港の華僑の中でも5本の指に入る会社。例え血縁であっても、それなりの能力が必要とされる世界でございます」
恭しく浩然は言う。
環は肩をすくめ、名刺を制服の胸ポケットにしまった。
「……明杰様とやらに伝えておけ。こっちはこっちで勝手にやるってな。会いたいなら勝手に来い。こちらから出向くことはない」
「……ほう。自信がおありなのですね?」
「まだ会ってもないのにそんな上から目線の奴に、敬意を払う理由はない。それだけだ」
環は言い捨て、裏口から屋敷へと入った。
振り返ることなく、すたすたと離れへと歩いていく。
――――環の姿が消えた後。
浩然は腕を組み、ふむと呟いた。
「なるほど。……外見のみならず、内面まで明杰様に生き写しとは。律子様があの方を隠していたのも、納得ですね……」
その呟きは誰に聞かれることもなく、木枯らしの中に消えていった……。