恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



――――数分後。

部屋に戻った環は、浩然から貰った名刺をポケットから取り出し、眺めた。


「港南機業、か……」


母の律子が自分を生む前、台湾の大学に留学していたというのは聞いたことがある。

恐らく、林明杰とやらにそこで出会ったのだろう。

なぜ身重になった母が一人で日本に戻ってきたのか、それは知らない。

しかし先ほどの浩然の言葉から、環はその理由がなんとなく分かる気がした。

――――多分、林家というのはかなり厳しい世界なのだろう。

そもそも香港大学は、学部にもよるが東大と同等クラスの大学だ。

そこに入ることが『お目通り』の条件だとは……。


「……」


環は無言で名刺を自分の机の引き出しにしまった。

華僑の世界に飛び込むつもりなど毛頭ない。

自らの力を試してみたいと言う気持ちもないことはないが、今の環の一番の望みは……。


―――自分は、花澄の傍で生きていきたい。


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