恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】



無言で睨み上げた花澄に、美鈴は低い声で言った。


「……あんたから婚約辞退の申し入れを雪也さんのお母様にしてくれたら、私は母に話をしてあげるわ」

「……っ……」

「ああ、もちろん、雪也さんの相手に私を推すことも忘れないで頂戴ね。……いい取引だと思うんだけど、どうかしら?」


美鈴は嫣然と笑う。

花澄はぐっと唇を噛みしめた。

――――屈辱的な取引ではある。

これが数か月前までなら、花澄は激しい葛藤を覚えただろう。

けれど、環とこうなった今……。

雪也への想いは、初恋の想い出として記憶の中に沈みかけている。


環に惹かれている自分が、雪也や賢吾の婚約者でいるというのも二人に失礼だろう。

それにもともと、美鈴と雪也は高校を出たら正式婚約することになっている。

……そもそも、叶うはずのない恋だったのだ。


自分がそうすることで、工房のためになるなら……。

花澄はしばらく美鈴を見つめた後、こくりと頷いた。


< 382 / 476 >

この作品をシェア

pagetop