恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
二章
1.花澄のトラウマ
一時間後。
工房に到着した花澄と環は、籠を片手に車から降りた。
工房は芦ノ湖の近くを走る県道から少し脇道に入った山里の中にある。
澄んだ空気と水に恵まれたこの場所は、父が2年ほどかけて探し出した土地だ。
工房の真ん前は舗装されていない里道となっており、車が入ることができないため、二人は籠を持って田んぼの脇の畦道を抜けた。
春を迎え、畦道の両脇にはナズナやヒメジョオン、キンポウゲなどの草花が可憐な花を咲かせている。
二人は里山の朝の清々しい空気の中、工房の方へと歩いて行った。
……と、畦道の途中で。
「……あれ?」
赤い花を見つけ、花澄は足を止めた。
曼珠沙華―――― 一般的には彼岸花と呼ばれる、秋に咲く赤い花だ。
曼珠沙華は普通、この時期には咲かない。
花澄に続き、環も足を止めた。
「曼珠沙華か。……狂い咲きだな?」
「……」