恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
「花澄、お前は消石灰を用意してくれ。外の小屋の中にあるはずだ」
「はーい」
藍染めはいろいろ人手も手間もかかるが、綺麗に染まった時には何とも言えない、嬉しい気持ちになる。
先祖代々受け継いできた藍染めの知恵をこの箱根で再び生かそうとした父を、花澄は誇らしく思っていた。
反物店となった本家の方が経営という面では二歩も三歩も先を行っているが、伝統を守るという点では、この藍染めの仕事も本家の仕事に決して劣らない。
……父が作ったこの工房を、ずっと守り続けたい。
まだ将来のことをはっきりと考えているわけではないが、その想いは花澄の中で年を経るごとに大きくなってきている。
花澄は甕の近くに置いてあったバケツを取り上げ、外の小屋の方へと歩き出した。