恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
2.一番大切なもの
11:30。
花澄と環は事務所の隣にある調理場で、野菜の山を相手に格闘していた。
もうすぐお昼になるので、昼食の準備を父に頼まれたのだ。
野菜はパートのおばさん達が各々の家から持ち寄ったもので、今日は環が来ると言うこともあり、いつもより多くの種類の野菜が集まったらしい。
環の料理は工房の皆にもとても好評で、環はここに来ると大抵昼食を作っている。
さすがに10数人分ともなると大仕事なので、花澄も環の手伝いをしている……のだが。
「……おい、何してる?」
「何って。ゴボウの皮を剥こうと思って」
「それはおれがやる。お前は食器の準備をしてくれ」
「えー、でも……」
「いいから」
環は低い声で言い、花澄の手からピーラーを取り上げて食器棚の方へと押しやった。
花澄はむぅと頬を膨らませ、トントンと包丁で軽快にニンジンを切る環を見た。
……環はいつも、花澄に調理を手伝わせようとはしない。