恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
もちろん味付けなどは環がやった方が確実だが、下拵えくらいは自分でも手伝える。
しかし環は花澄に包丁を握らせることはおろか、野菜洗いすらさせない。
花澄は食器棚から人数分のお椀や箸を出しながら、ちらりとガス台に置かれた鍋を見た。
どうやらけんちん汁を作るつもりらしい。
そして研いだお米の脇には、ワラビやウド、タケノコ等の春の山菜が並んでいる。
これらは山菜の炊き込みご飯にするようだ。
「…………」
ここまで完璧な和食を作れる男子高校生が、世の中にどれほどいるのだろうか。
花澄は食器をテーブルに置き、じっと環の背を見つめた。
……頭がよく、ルックスも抜群、そして家事も完璧。
同い年なのに自分とのこの差はなんだろう。
環は将来、どういう道に進むつもりでいるのだろうか……。
高校を卒業するまでは一緒に生活することになるのだろうが、その後は……。
花澄はしばしの沈黙の後、口を開いた。
「……ねぇ、環」
「なんだ?」
「あのさ。……環は将来、何になりたいの?」