恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
「母が急いで来いって。……はぁ、せっかく雪也さんと文学館に行けるって思ったのに。タイミング悪すぎるわ」
「……」
「悪いけど、私はここで帰るわね。……また学校で会いましょ?」
美鈴は二人に済まなそうに言い、踵を返して駅の方へと歩き出した。
美しく気品あるその後ろ姿はやはり同い年とは思えない。
……やがて、美鈴の姿が通りの向こうに消えた後。
雪也がスマホをポケットに突っ込み、大きく伸びをした。
「予定変更、か。……じゃあ俺達も予定変更しようか?」
「え?」
「花澄ちゃんとなら、文学館じゃなくって違うトコに行きたいな。……というわけで、駅前に戻ろ?」
雪也はどこか肩の荷が下りたような、さっぱりした顔で花澄の腕を掴む。
そのまま踵を返し、来た道を戻り始める。
あたふたする花澄に、雪也は歩きながら笑って言った。
「ホントはさ。今日、海がダメなら川にでもって思ってたんだけど。そしたら朝、美鈴が突然寮に来てねー……」