恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
――――あれは、小学4年の7月。
七夕の夜。
花澄は父とともに、伊豆の西海岸にあるとある家の別荘を訪れていた。
『知り合いの子の誕生日パーティがあるんだ』と父に言われ、花澄はその前日、慣れない手つきで一生懸命クッキーを作った。
その子とは会ったことはないが、どうやら花澄と同い年らしい。
そしてその日の夜、花澄は父とともにその別荘へと向かったのだが――――車酔いで気分が悪くなってしまい、花澄は別荘の一室で休むこととなった。
『花澄、お父さんは月杜さんに挨拶してくるから。お前はここで休んでなさい』
父は言い、花澄を残してパーティ会場の方へと行ってしまった。
広い部屋にひとり取り残された花澄は、持ってきたクッキーの袋をテーブルに置き、ベッドに横たわり蹲っていた。
……やがて15分ほど経った頃。
窓の向こうで物音がするのに気付き、花澄は身を起こしてそっと窓の向こうを見た。
そこにいたのは――――西洋人形のように端整な顔立ちの、優しげな雰囲気の男の子だった。
その男の子は庭の池のほとりに佇み、じっと水面を見下ろしている。
池には月が映り込み、水面を渡る風にゆらゆらと揺れている。
男の子の手にはカラフルな包み紙や紙袋があり、男の子はその一つを開け、中から何かを取り出した。
どうやら、手作りの焼き菓子のようだ。