恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
花澄は何も言えず、ただ男の子を見つめていた。
……まるで月の精のように、清らかな顔立ち。
心の美しさがそのまま映し出されているかのような、澄んだ双眸。
けれど月明りの下、男の子の顔は青ざめ、苦しげに歪んでいた。
『そう……』
男の子はゆっくりと立ち上がり、花澄の近くへと歩み寄ってきた。
窓辺に立つ花澄を見上げ、自嘲するように笑う。
『僕ね、……お母さんが作ったものしか食べれないんだ。他の人が作ったものは、食べようって思っても、どうしてもダメで……』
男の子は哀しげに言う。
苦しんでいる、ということが幼い花澄にもわかった。
じっと見つめる花澄に、男の子は言う。
『みんなは僕を優しいって言うけど、優しくなんかない。みんながせっかく僕のために作ってくれたものを、僕は……』
『……』
『こんなことしちゃダメだってわかってるけど、……でも僕より、ここの鯉の方がよほど美味しそうに食べてくれる。だから……』