恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
「食べれなくても嫌われることはないって、君に言われて……。たぶん心の中で、何かが外れたんだろうな」
「……」
「それからかな。他の人が作った料理もだんだん食べることができるようになって、夏休みが終わる頃には外食も普通にできるようになってた」
「そ、そうだったんだ……」
花澄は初めて知る事実に驚き、雪也を見上げた。
あのクッキーがそんな役割を果たしていたとは思ってもみなかった。
雪也は足を止め、花澄の瞳をじっと見つめる。
……いつもと違い、かすかに熱を帯びたその瞳。
「だから俺、花澄ちゃんには感謝してるんだ。……もっとも、あのことだけは君の記憶から抹消したいけどね?」
雪也は悪戯っぽく笑い、花澄を見る。
花澄はドキドキしながら雪也を見つめていた。
……雪也の優しさは、あの頃から変わらない。
あれから7年が経ち、雪也は今、花澄の憧れの人となっている。
昔から惹かれずにはいられなかった、雪也の優しさ。真っ直ぐな心。
あの日と同じ月明りが二人を照らす。
二人は月明りの下、駅への道をゆっくりと歩いて行った。