恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】
見ると、ぴしっと夏用の訪問着を身に着けた清美がリビングの入り口で花澄に厳しい視線を向けている。
今日はお茶会に行くと言っていた気がするのだが、予定より早く戻ってきたらしい。
花澄は慌てて何か羽織ろうとしたが、手近に羽織るものもなく……。
しゅんと項垂れた花澄の前に、清美ははぁとため息をつき歩み寄ってきた。
「美鈴のようにきっちりしろとは言わないが、お前のその恰好はさすがにラフすぎる。この屋敷には環もいるのだよ?」
「……」
「そのように肩の出る格好は自分の部屋の中だけですること。わかったね?」
清美の言葉に、花澄は力なく頷いた。
清美は俯いた花澄の前で、懐から何かを取り出しそっと差し出す。
どうやら封筒のようだ。
「……これは?」
「今日の茶会で月杜の奥様から頂いた、避暑パーティの招待状だ。去年は白馬だったが、今年は西伊豆の別荘でやるようだね」
花澄は封筒を受け取り、中に入っていた招待状を出した。
月杜家では毎年8月に親戚や友人達を別荘に招待し、避暑パーティを行っている。
そして毎年、花澄や美鈴、そして環もそれに参加している。
環は使用人なので招待客ではないのだが、『月杜の奥様』、つまり雪也の祖母が環が淹れるコーヒーをいたく気に入っており、環はいつも執事として参加している。