恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
一章
1.100万の手切れ金
土曜の午後。
雨雲の隙間から漏れた日差しが差し込む、午後の喫茶店。
木のぬくもりを感じる瀟洒なインテリアで整えられた店内は、クリスマスのせいかカップル達でにぎわっている。
穏やかなジャズの音楽が優雅に流れる中……。
向かいに座った男が、言いにくそうに口を開いた。
「……というわけで、ごめん。君とは、別れたい」
男は光沢のある茶色のスーツを身に着け、整髪料で整えた頭を低く下げた。
明らかに服に着られてしまっているとわかる、その格好。
花澄は唇を噛みしめ、じっと男を見つめた。
男の名は、広瀬直行。
たったいま、花澄の『元カレ』になったこの男と知り合ったのは、1年前。
花澄が勤めている、新宿にある小さな商社に広瀬が水道配管の確認に来たのがきっかけだった。
笹塚の甲州街道沿いにある工務店に勤めている彼は、花澄と同じく高卒だが配管工としての腕は確かで、花澄の会社には水漏れの修理に度々来ていた。
やがて花澄は広瀬から食事の誘いを受けるようになり、二人で何度か食事をするうちにいつのまにか付き合う形となっていた。
体の関係とまではいかなかったものの、朴訥で純情な広瀬に花澄はしだいに心の安らぎを覚えるようになっていた。
しかし……。