恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



一見、名刺交換にしか見えないようなやり方なので、周りから見たらキャッチには思われない。

そもそもこんな所でキャッチをしているなど、誰が思うだろう。

男はにこりと笑い、丁寧な口調で言う。


「さきほど、コンビニの前にいらっしゃるのを拝見しまして。いかがですか?」

「……いえ、結構です」

「あなたは身なりこそ安物の服で固めてますが、挙措を見れば上流の出であることはすぐにわかります。あなたのような人材を当店は求めているのです」


男は熱心に言う。

花澄は驚き、男を見た。

男は優しげな笑みを浮かべ、優雅に一礼した。


「どうぞ、ご一考くださいませ。……では、失礼いたします」


しつこくすると目立つからだろうか、男は名刺を渡し、あっさりと引き下がった。

花澄は渡された名刺をしばし眺め眇めつしたあと、スーツのポケットにしまい込んだ。

……キャバクラは、昔、一時考えなくもなかった。

手も足も出ないほどお金に困っていた、あの頃……。


「キャバクラ、か……」


なぜか今日は、お金に関わることに縁があるらしい。

あまり嬉しくもないが……。

花澄は再び、改札の方へと歩き出した。


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