恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



花澄の言葉に、暁生は大きく息を飲んだ。

明らかに動揺していると分かる、その表情。

どうして暁生がここまで驚くのか……。


「そう、ですか。……しかし、どうして……」

「……?」

「……何もなく、手放すはずがない。あれほどに、……を……」

「……暁生さん?」


訝しむ花澄の前で、暁生は珍しく慌てた様子でグラスの水を飲んだ。

トンとグラスを置き、正面から花澄を見る。

まるで射竦めるかのような、その瞳。

絶対に離さないと、告げているかのようなその瞳……。


その瞳の激しさに息を飲んだ花澄の前で、暁生はゆっくりと視線を逸らした。

目を伏せてひとつ息をつき、再び花澄に視線を戻す。


「……失礼しました。何でもありません」

「暁生さん?」

「やはり、あなたは……いえ、やめましょう……」


暁生は自嘲するように笑い、フォークを置いた。

いつのまにか運ばれてきたメインディッシュの皿を二人の間に置き、手際よく切り分けていく。

メインディッシュは子牛のローストで、マスタードソースの香りが食欲をそそる。


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