恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「さ、どうぞ。これはこの店の看板メニューです。まずは一口、食べてみてください」
花澄は暁生に取り分けてもらった子牛のローストを、フォークで口に運んだ。
口いっぱいに広がる、純粋な肉のうまみ。
肉汁とソースの相性も抜群だ。
「……美味しい!」
と思わず口にした花澄に。
暁生は目を細め、優しく笑った。
……どこか懐かしそうな、その笑顔。
花澄は初めてみる暁生の表情に、ふいに胸が高鳴るのを感じた。
こんなに優しい表情もできるんだ……。
何故か、胸がドキドキする。
花澄は慌てて俯いた。
……この人は、女たらしだ。誰にでもこういう笑顔を見せるのだろう。
そう自分自身に思い込ませないと、惹かれてしまいそうで怖い……。
それは環に似ているせいなのだろうか、それとも……。
花澄は俯いたまま、必死にカトラリーを動かした……。