恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



ころころと転がる、鈴のような声。

脳に溶け込んでいく、その声……。

女はしばし押し黙った後、再び口を開いた。


「ね、暁生。……あの子に、まだ言わないの? いつまで隠し続けるつもりなの?」


女の言葉が鈴の音のように心を揺らす。

胸の奥の古傷が、痛みと共に開いていく。

いつもは理性の奥に隠れている想いが、胸の中でゆらゆらと灯火のように揺れる。


「言えるはずが、……ない。花澄は逃げた、しかも、二度も……」


自らの呻くような声が、酒で朦朧とした頭に響く。

脳裏に、ぼんやりと彼女の面影が浮かぶ。


あの店で自分の顔を見た瞬間、蒼白になり、踵を返した彼女。

あのホテルの部屋から、いつのまにか消えていた彼女。


そう、彼女はいつもするりと逃げてしまう。

……傍に居て欲しいと、どんなに望んでも……。



< 106 / 389 >

この作品をシェア

pagetop