恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



春燕は呟き、ベッドに横たわる男に視線を戻した。

酒気に青ざめたその横顔は、春燕の横顔と少し似ている。

春燕はもう一度、さらっと男の髪を撫でた。


人の心を損なうのは、酒ではない。

人の心を損なうのは────抑えきれぬ哀しみだ。


男のような性格の人間の場合、怒りであれば酒に逃げることはない。

男を酒に向かわせているのは、深い哀しみだ。

魂が張り裂けんばかりの、深い哀しみ……。

何かに逃げなければ正気を保てないほど、辛く、深い哀しみ……。


「あんたが本当にしたいのは、多分決別でも復讐でもないのね。────復讐しても、あんたの心は救われない。でしょう?」

「……」

「いつか『真実』を掴めるといいわね。……今はお眠りなさい、小弟……」


春燕の優しい声が、夜の帳の中に響く。

やがて静かに、シェードの灯りが消えていった……。


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