恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
2.『初めての男』
「────はぁ? 手切れ金!?」
渋谷の繁華街の一角。
和風居酒屋の掘り炬燵に陣取った花澄と友人は、それぞれにグラスを傾けていた。
二人の前には、刺身や串焼き、軟骨揚げなどが並んでいる。
さほど広くない店内は、隠れ居酒屋といった感じで二人の御用達の店となっている。
黒糖梅酒のグラスを傾ける花澄の前で、黒のパンツにカットソー、紺のジャケットを身につけた友人が串焼きをつつく。
レモンを振りかけ、ぱくりと大きな口で焼き鳥を頬張る、その女性は……。
西脇知奈。25歳。
花澄の高校時代の友人で、今はコピーライターの仕事をしている。
知奈は高校の頃から文才に優れており、大学卒業と同時に広告代理店に入社し、ライターの仕事を始めた。
今は品川にある小さな出版社に勤めているが、今度の春までに転職する予定らしい。
知奈はカンパリを一口飲み、はぁーっと頬杖をついた。
「せっかくカレシができたと思ったら。何なの、その別れ方?」
「私にもよくわかんないんだけど。なんで突然、あんなお金を……」
「ひょっとしたら、その女とやらに貰ったのかもね。『これであの子とは手を切りなさい』みたいな?」
「そうなのかな、やっぱ……」