恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
よく分からないが、この男は工房から商品を仕入れたいと思っているらしい。
有難いことではあるが、さすがに急すぎる。
と思ったのが伝わったのだろうか、男はニコリと笑って花澄が渡した名刺をしまった。
「後日、連絡させてイタダキマス。ではナニトゾ、ナニトゾ、ヨロシク」
男はぺこぺこと頭を下げ、よくわからない挨拶をして通路の奥の方へと歩いていく。
花澄はしばし呆然とその背を眺めた後、貰った名刺と書類をしまって『港南機業』のブースに足を踏み入れた。
きょろきょろと見回していた花澄の目に、奥で女性と談笑している暁生の姿が目に入る。
二人ともスーツ姿で同じIDカードを首から下げているところを見ると、どうやら同じ会社の人らしい。
暁生のところに行こうと思った花澄だったが、その親密な雰囲気に思わず足を止めた。
────それにしても、なんて綺麗な女性だろう。
背はすらっと高く、緻密な白い肌に紅玉のような唇が鮮やかに映えている。
真っ直ぐで艶やかな黒髪を後ろで結いあげたその姿は、まるで女優のようにも見える。
あんなに綺麗な人が、いつも傍にいるんだ……。
そう思うと、なぜか鋭い痛みが胸に広がる。
やがて暁生は商談に呼ばれたらしく、ブースの奥へと入っていった。
悄然とした花澄に、女性があらといったように声をかける。