恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「あの子は、金で動く子じゃないわね……」


春燕は先ほどまで会っていた花澄の瞳を思い出した。

真っ直ぐに春燕を見た、あの大きな焦茶色の瞳……。


花澄が暁生を選ばなかったのは、身分や金銭的な部分が原因ではない。

もっと根本的な問題があったのだろう。

花澄と接し、春燕はなんとなくそう理解した。


はぁとため息をつき、片手で目元を覆う。


「金が理由、の方がまだマシかもしれないわね。真実はあんたにとって、相当厳しいものかもしれないわよ、小弟……」


呟きは誰に聞かれるともなく、コーヒーの湯気の中に消えていった……。



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