恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



──── 一時間後。

同窓会の後、花澄は店を出、品川駅へと足を向けた。

店の前ではまだ同級生が集まり、二次会やらカラオケやらの話をしている。

花澄は彼らの楽しげな声を背後に聞きながら、急ぎ足で建物の間の路地へと入った。

……雪也はあれから、花澄に気付いた様子はなかった。

気付かれないうちに、駅まで行ってしまった方がいい……。

と速足で歩く花澄の前に、黒い影が立ちはだかる。



「……花澄」



昔より幾分低くなった、甘いテノールの声。

昔は『花澄ちゃん』と呼んでいた、その声……。

息を飲んだ花澄の前で、その人物はくすりと笑った。


「こんなことだろうと思ったよ。……変わらないね、君は」

「……っ、雪、くん……」


花澄は呆然と雪也を見上げた。

7年前より遥かに大人っぽく、格好良くなった雪也。

大人の男の自信を漲らせた、すらっとした立ち姿。

花澄はなぜか、自分の胸に痛みが広がっていくのを感じた。

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