恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
花澄は自らの心の動揺を隠すように、慌てて首を振った。
暁生を振り仰ぎ、口を開く。
「……暁生さん、ひとつ聞いていいですか?」
「ええ、何でしょう?」
「暁生さんは、誰かを好きになったことはありますか?」
……なぜ、そう聞いてしまったのかはわからない。
しかし零れた言葉は戻らない。
はっと我に返った花澄の前で、暁生もまた驚いたように花澄を見た。
しばらく凝視した後、……くすり、と皮肉げな笑みを浮かべる。
「恋、ですか。……私はもう二度と、恋に身を灼くことはないでしょう」
その言葉に、花澄は凍りついた。
その言葉に込められた、悲痛な想い。
息を飲む花澄から視線を逸らしたまま、暁生は続ける。
「昔、ある人に教えて頂いたんですよ。……人を愛することの空しさをね」
「……っ……」
「ですから、あなたに本命が現れるまでの、暇つぶしの相手にはちょうどいいと思いますよ?」