恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



花澄は自らの心の動揺を隠すように、慌てて首を振った。

暁生を振り仰ぎ、口を開く。


「……暁生さん、ひとつ聞いていいですか?」

「ええ、何でしょう?」

「暁生さんは、誰かを好きになったことはありますか?」


……なぜ、そう聞いてしまったのかはわからない。

しかし零れた言葉は戻らない。

はっと我に返った花澄の前で、暁生もまた驚いたように花澄を見た。

しばらく凝視した後、……くすり、と皮肉げな笑みを浮かべる。



「恋、ですか。……私はもう二度と、恋に身を灼くことはないでしょう」



その言葉に、花澄は凍りついた。

その言葉に込められた、悲痛な想い。

息を飲む花澄から視線を逸らしたまま、暁生は続ける。


「昔、ある人に教えて頂いたんですよ。……人を愛することの空しさをね」

「……っ……」

「ですから、あなたに本命が現れるまでの、暇つぶしの相手にはちょうどいいと思いますよ?」


< 134 / 389 >

この作品をシェア

pagetop