恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
三章
1.『選べない』理由
1月下旬。
週末の日曜。
花澄は箱根にある父の工房にいた。
奥の事務室で売上伝票や仕入伝票をまとめていた花澄に、父の繁次が上機嫌に言う。
「そういえばな、花澄。『華商集団』の梁さんから、今日入金の連絡があったぞ」
父の言葉に、花澄は伝票をめくっていた手を止めた。
『梁さん』は、あのビックサイトの展示会で、カタコトの日本語で話しかけてきた人だ。
あれから数日後、彼から工房に連絡があり、まずはお試しで藍染めの反物やのれんなどを納品してみることになった。
売上金額としては30万円ほどだろうか。
しかし先週、届いたばかりのはずなのにすぐに入金してくれるとは、ずいぶん気前のいい人だ。
それだけ商品を気に入ってくれたということだろう。
父は笑いながら続ける。
「で、な。今度の注文は大口でな。来月の半ばまでに、そうだな……、金額にして350万円分の商品を納品することになった」
「えっ、350万!?」