恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「……私、ちゃんとした懐石料理って初めてです」


と、花澄が言うと。

暁生も少し笑って言った。


「私も初めてですよ。なかなかこういった本格的な和食を食べる機会はないものですから」

「そうですよね……」


花澄は言いながら、昔、環が作ってくれた料理を思い出した。

────昔、まだ花澄が屋敷にいた頃。

日々の料理は全て、環が作っていた。

執事兼使用人という立場だった彼は、料理のみならず屋敷全般の管理を任され、家族の信頼も厚かった。

環が作る料理はどれも美味しく、花澄は彼が作る料理が大好きだった。

今思えば、彼の料理を食べ続けたせいで舌が肥えてしまったのかもしれない。

一人暮らしをしている今、彼が作っていた料理を再現すべく日々努力しているのだが、まだ足元にも及ばない。

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