恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



「……どうかしましたか?」

「あ、いえ。何でもないです」


花澄は慌てて言った。

暁生は花澄を少し訝しげに見た後、日本酒の徳利を持ち上げた。


「さ、どうぞ。これは岡山の備前酒です。大吟醸ですから日本酒が苦手な方でもわりと飲みやすいと思いますよ?」

「あ、ありがとうございます」


暁生は慣れた様子で花澄のお猪口に注いでくれる。

花澄は礼を言い、ひと口飲んでみた。


「……美味しい」


日本酒だがツンとくる酒臭さはあまりなく、まるで水のようにすいっと喉の奥に流れていく。

口の中に残る清冽で芳醇な香りに、花澄は感動した。

────こんなに美味しい日本酒があるんだ。

しかしこんなに美味しいと、この間の『シャトー・ディケム』もそうだが、つい続けて飲んでしまう。

しかしこの酒も、多分花澄が想像もつかないような値段がするのだろう。


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