恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~



暁生は射るように花澄を見つめた後、その紅梅のような唇に皮肉げな笑みを乗せる。


「……なるほど。貴女は謙虚で誰にでも優しい。誰も傷つけることがないように、一生懸命気配りをする。相手が望む答えを用意しようとする。そういう人だ」

「……、暁生さん?」

「でもそういう人間を一般的に何というか知っていますか? ……『八方美人』ですよ」


毒に満ちた暁生の言葉に、花澄は息を飲んだ。

目を見開いた花澄に、暁生はさらに抉るように言う。


「貴女の『愛』は周りの人を少しずつ幸せにするかもしれない。……でも、それだけだ。誰かを心から幸せにするなどということはできない」

「……っ」

「貴女が一番大事なのは他でもない、自分自身だ。違いますか?」


暁生の言葉は花澄の心に杭のように突き刺さった。

……一番大事なのは、自分自身……。



< 145 / 389 >

この作品をシェア

pagetop