恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
────幼い頃。
花澄の両親は夫婦仲が悪く、花澄が小学校低学年のときに二人は離婚した。
離婚時、花澄は両親にどっちに付いていきたいかを聞かれ、迷った挙句、父親を選んだ。
その後花澄は父親のもとに引き取られたが、離婚時の面会の取り決めにより花澄は何度か母親に会う機会があった。
母親との面会の日を、花澄は幼心にとても楽しみにしていた。
……しかし、ある日。
面会時間が終わろうとする間際、花澄は母に寂しさのあまり『帰らないで』と縋りついた。
母はそれまでは優しい母親の顔をしていたが、花澄のその言葉を聞くや否や、すっと厳しい顔になり、こう言った。
『……我儘言っちゃだめよ。選んだのは花澄、あなたなのだから』
その時花澄は、自分がしたことの意味を悟った。
何かを選ぶということは、選ばなかったものを捨てるということだ。
今思えば、母親は自分に世間の厳しさや、何かを選ぶということの意味を教えてくれようとしたのかもしれない。
しかし幼い花澄にとってその言葉は深いトラウマとなり、大人になった今も『選ぶ』ことへの恐怖心は抜けきらないでいる。
……しかし。
何も選ばなくても、周りの人を傷つけることがある。
それを知ったのが、7年前のあの一連の出来事だった。