恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
『彼女を自分に夢中にさせたあと、彼女が大事にしているもの全てを奪い、彼女を破滅させる』
彼女に会うのはそのためだと、暁生は言う。
しかし週末の前になると、暁生は念入りに店をリサーチし、彼女が好みそうな酒を選んで店に手配しておく。
そう、まるで、誰かに対抗するように……。
この7年の間、彼女が誰かに食べさせてもらったもの以上に美味しいものを、自分が食べさせるのだと────
そういう意図をもって選んでいるようにしか、春燕には見えない。
「……不器用ね、本当に。ただ夢中にさせるだけならもっと他に方法はあるでしょうに。何が目的なのかわからなくなってるわよ?」
春燕はくすりと笑い、暁生の寝顔を眺めた。
夢の中でも何かに苦しんでいるかのような、その横顔。
暁生は昔、彼女と一緒に住んでいた頃、彼女の口に入るものは全部自分が作っていたと言っていた。
暁生はそれ以上は何も言わなかったが、暁生がどんな気持ちで彼女の食事を作っていたのか、春燕にはなんとなくわかる。
────彼女がこの先どんな料理を食べても、自分が作った料理が一番美味しいと思うようになればいい。
暁生は恐らくそう思い、料理の腕を磨いていたのだろう。