恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
しかし『林暁生』として彼女に接している今は、彼女のために自ら料理を作ることはできない。
であればせめて、彼女がこれまで食べたことがないような、美味しい料理を彼女に食べさせたい。
────離れていたこの7年の間、他の男が彼女に食べさせたどの料理より美味しいものを、自分が彼女に食べさせたい。
多分暁生は、『彼女を自分に夢中にさせる』という建前の下、無意識のうちにそう思い、一流の店ばかりを予約しているのだろう。
────報復だと言い切るその瞳の奥にある、哀しいまでの切望。
情が深いほど、恨みも深い。
しかし、かつて心から愛した人間を前に、恨みだけを募らせることができるほど、人の心は簡単に割り切れるわけでもない。
春燕は目を伏せ、その紅玉のような唇を開いた。
「でもね、暁生。……この間、あの子に会ってはっきりわかったわ。あの子は一流の店だとか、大金に目が眩むような子じゃない」
「…………」
「7年前、あの子があんたを捨てた原因は、きっと別にあるのよ。……それにあんた自身が気付かない限り、あの子を本当の意味で手に入れることはできないわ」