恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
────10分後。
「ごめん、待たせて」
カフェの入り口にスーツ姿の雪也が姿を現した。
片手にスーツケースを転がしているところを見ると、どうやら出張帰りらしい。
雪也は花澄がいるテーブルに歩み寄り、上に着ていたビジネスコートを脱いで向かいの席に優雅に腰かける。
その黒褐色の髪も、月の光を溶かしたような透明感のある瞳も、端整な顔立ちも……
記憶の中にある雪也の面影と、あまり変わらない。
けれど雰囲気は、だいぶ大人っぽくなった。
────懐かしい、初恋の人……。
雪也は通りかかったウェイターに手早くコーヒーを頼み、花澄に向き直った。
「本当は午前中に東京に戻る予定だったんだけど、会議が長引いてさ」
「そういえば雪くん、専務になったんだってね? おめでとう」
「おめでたいかどうかは何とも言えないけどね。役員の中じゃ下っ端だから、爺様たちの指示であちこち走り回らされてるよ。……でも君に言われると嬉しいな。ありがとう」