恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~




「どうして……っ!」


花澄はぐっと両手を拳に握りしめ、環を見上げた。

環はうっすらと笑い、その紅梅のような唇を開く。


「……どうしてって。お前も理由は薄々勘付いてるんじゃないのか?」


環は鋭い、刺すような視線で花澄を見る。

────憎しみに満ちたその瞳。

そして、その瞳の奥に見え隠れする……身を切られるような切なさと、哀しみ……。


花澄は背筋を凍らせ、環を見上げた。


『林暁生』としてずっと花澄に接してきた環。

環の性格からしたら、ああいう浮ついた人格を演じるのはかなり苦しかったはずだ。

そして広瀬の件もクリスマスの件も、綿密な計画を立てて実行した環。

環のような性格の人間が、時間と金を費やし、理不尽な辛抱をしてまで、そんなことをする理由はただひとつだ。



────怨恨。


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