恋獄 ~ 紅き情炎の檻 ~
「……わかりました。でも広瀬さん、ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「……何だい?」
「別れるのは、この間会った……あの女の人と付き合うからですか?」
花澄の言葉に、広瀬は躊躇うように視線を彷徨わせたあと、はっきりと頷いた。
花澄は内心で落胆しつつも、得体のしれない不安が胸をよぎるのを感じた。
────二週間ほど前。
仕事の後、新宿駅へと向かう道を歩いていた花澄は、見覚えのある男が目の前の道を横切っていくのを見、驚いて足を止めた。
男はいつもの灰色の作業服を着ており、広瀬だというのは一目でわかった。
彼の隣には上品なスーツを身に着けた艶やかな美女がおり、しな垂れかかるように腕を絡ませていた。
一見夜の仕事の女性のようにも見えるが、身に着けている服やバッグなどを見る限り、金を持っている女だというのは一目瞭然だった。
────それがすぐにわかるというのは、昔取った杵柄というやつかもしれない。
驚く花澄の前で、二人も花澄に気付いたようだった。
その瞬間の『しまった』という広瀬の顔を花澄は今も忘れられない。
「君には、申し訳ないけれど……。今の僕にはもう、彼女しか見えないんだ」
「そう、ですか……」